正しい傷の手当て 本文へジャンプ





傷を覆うもの


▪ 創傷被覆材を使ってみてはどうでしょう



さまざまな創傷被覆材(改良型や新製品もどんどんできています)

 生き物の体には多くの細胞活動による自己治癒力が,必ず備わっています。この治癒力が十分発揮されるためには,患部が乾燥しない滲出液による湿潤環境が必要です。この目的に合ったドレッシング(傷を覆うこと)の材料として,創傷被覆材があります。創傷被覆材は傷から出る滲出液を保持して,細胞が働きやすい湿潤環境を作り治癒を促進します。被覆材には良好な肉芽や上皮の形成,疼痛の軽減効果を認めますが,製品によっては止血や傷の保護効果を期待できるものもあります。さらに,壊死組織を取り除くことも可能で,この作用は組織を溶かす蛋白分解酵素の生理的な働きを,壊死組織の存在する場所だけで発揮させることによるものです。このように創傷被覆材は,肉芽組織や周辺健常組織への傷害を起こさず低侵襲性であるという特長があります。
 基本的に,被覆材は数日に一度の交換で構いません。傷の処置回数を少なくできるという長所もあるのです。ただ,滲出液が多かったり壊死組織を除去しようとするときは,交換回数を増やします。また,創傷被覆材の使用が傷に合っているかどうか確認するとき,創傷被覆材の利用に慣れていないときなどは,しばらく毎日傷を観察した方が無難です。

 傷の治癒には湿潤環境が大切であるという考えが発表されてから,すでに50年前後が経っています。湿潤環境をうまく維持できる創傷被覆材が製品化されたのも,約30年前です。現在,選択に困るほど被覆材が多く製品化されているにもかかわらず,いまだに湿潤環境維持による治療の考え方が広く浸透していないのは残念なことです。人の自己治癒力を引き出し傷を治癒させる創傷被覆材は,副作用の心配がなく低侵襲性であり,もっと注目されてよいのではないでしょうか。手術手技と同様に,傷の処置でも低侵襲という考え方は大事です。
 傷から出る液をすべて膿(うみ)と思い込んだり,滲出液を吸収しゲル状になって傷に付着している創傷被覆材を膿と勘違いし,感染していると心配される方がいます。ジクジクしているのがすべて膿ではありません。消毒のところで感染について説明しましたように,傷周囲の発赤,熱感,腫脹,疼痛,傷からの排膿,発熱を認めた場合に感染と言えるのです。普通の傷で「膿のようなもの」を見たというだけで,早合点してはいけません。また,創傷被覆材を使っていると,傷から臭いがすることがあります。この場合も,感染の所見がなければ大丈夫です。ひょっとしたら,洗浄不足かもしれません。
 最近では,ごく小さい傷用ではありますが,市販の創傷被覆材もあり,創傷被覆材に関心が高まっているようです。



(1)剥き出しで放置していた傷。ひどく大きなかさぶたができている。

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(2)かさぶたの下には,傷が隠れている。つまり,乾燥させると傷は治りにくい。




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創傷被覆材の利用。しみ込んでいるのは,膿ではありません。

イメージイメージ市販の創傷被覆材