褥瘡にも,保存的治療(処置で治療)と外科的治療(手術)があります。一般に,真皮(体表面から2番目の皮膚の部分,比較的強靭)までの浅い褥瘡には保存的治療,皮下組織に達する深い褥瘡や大きな皮下ポケット(表面からは見えないが,皮下に広がり隠れている傷)を有する褥瘡には手術が適応です。深くても変性した骨が露出していなければ,保存的治療も可能です。ただ,骨の近くまで達した褥瘡は,手術をした方が治療期間の短縮になります。褥瘡には手術の適応がないという考えは間違いです。褥瘡患者様は重度の障害を持つことが多く,生活環境もさまざまです。手術の適応ではあっても,手術侵襲に耐えられない場合や手術の同意が得られないときは,保存的治療を行うことになります。
このホームページでは,理論的で常識的な傷の治療方法を述べています。理論に基づいた創傷ケアは,効果的で低侵襲です。褥瘡の治療では,このような方法を行うことが特に求められます。褥瘡がある方には体力の低下をしばしば認めるため,保存的治療でも手術でも,できるだけ低侵襲な方法を選択する必要があるのです。
すでにお分かりのように,保存的治療の基本的方針は,自己治癒力をうまく引き出すことです。すなわち,(1)圧迫やズレの排除(褥瘡ケアの重要ポイント,体位やマットレスに注意),(2)壊死組織の除去(治癒の障害因子,メスや外用剤創傷被覆材を利用),(3)洗浄(感染がなければ消毒は不要,関節の中などにつながってなければふつう水道水で十分),(4)外用剤や創傷被覆材の適切な使用(傷を観察し選択,湿潤環境が理想)を中心に,栄養の改善や基礎疾患の治療(傷は体の一部にあるため),リハビリテーションや褥瘡ケアの説明(本人や家族へ,再発予防などに重要)を同時に行います。
栄養状態の低下は,創傷治癒を障害します。栄養の評価は,体重や上腕の皮下脂肪厚,血清アルブミンなどで行います。可能であれば,食べ物は本来の経路である口から食べるようにします。栄養的にも精神的にも良いためです。そのために,咀嚼や嚥下障害の程度に応じて調理法の調整や栄養補助食品の選択を行う場合があります。栄養士の積極的な関与が,褥瘡ケアに必要です。決して,医師看護師だけの力では良いケアはできません。ときに,歯科医師による歯の管理も求められます。
褥瘡ケアを進めるには,傷をよく見る必要があります。しかし,じっと見ていても,どのように見てどう表現していいのか分からなければ意味がありません。何らかの基準で観察して表現し記録をしていくべきでしょう。観察には,日本褥瘡学会が提唱したDESIGN(デザイン)という方法があります。深さ(Depth),滲出液(Exudate),大きさ(Size),炎症/感染(Inflammation/Infection),肉芽組織(Granulation
tissue),壊死組織(Necrotic tissue)の6項目について,褥瘡を観察評価する方法です。各項目で状態が軽度のときは小文字d,e,s,i,g,nで,重度のときは大文字D,E,S,I,G,Nで表わします。なお,皮下ポケット(Pocket,皮下に拡大した傷)があれば-Pをつけます。DESIGNには重症度分類用と経過評価用があり,後者で各項目が細分化され点数がつけられています。点数の合計値は,患部の状態が不良なほど高くなります。重症度分類用ではDESiGNなど,経過評価用ではDESIGN-P=22点(D4点E3点S6点I2点G3点N1点-P3点合計22点)などと記録します。大文字を小文字にしていくのが,褥瘡ケアの目標になるでしょう。当然,褥瘡の改善に伴って合計点数も減少していきます。
点数付けで参考になることや注意点は,以下の通りです。深さでは周辺皮膚と創に段差があればDのいずれか,段差がなければdのいずれかになります。滲出液はガーゼや創傷被覆材を見て評価しますが,肝心なのは自分が交換する回数ではなくて褥瘡にとって必要な交換回数で評価することです。体位により創の形が変化するため,毎回同一体位で大きさは測定します。このとき,外から見える創口の大きさだけを測定し皮下ポケットは考慮しません。炎症は壊死組織や圧迫などへの組織反応です。感染は生体で細菌が増殖したもので,炎症症状である周囲の発赤,腫脹,熱感,疼痛に加えて排膿,悪臭,全身的発熱などを認めます。排膿や発熱が確認できて初めて感染と言えるのです。肉芽組織のうち良性肉芽はきれいな赤色をしており,不良肉芽は浮腫状,大きな粒状,白色,暗赤色と表現できる肉芽組織です。やわらかい壊死組織は黄色のことが多く,硬いものは黒色のことが多いと思います。皮下ポケットも,いつも同じ体位で測定することが大事です。創内に挿入した鑷子などがどこまで達するかを確認し,外から見える創口部を含めたポケットの長径(cm)×短径(cm)を計算します。この値から,すでに計算している「大きさ」の値を引き算したものが皮下ポケットの評価値です。
褥瘡には手術の適応がないという考えは間違いです。深い褥瘡で手術を行うことが可能な患者様の場合は,手術により褥瘡の治療期間を短縮することができます。ただ,圧迫やズレなど褥瘡の根本原因を手術が解決するわけではないので,手術をしても褥瘡の再発を防ぐことはできません。手術は,あくまで傷の治療手段のひとつです。したがって,手術術式は創の状態を考慮し,患者への侵襲ができるだけ少ない方法を選択します。病変部を切除したあと,そのまま縫合可能であれば縫縮術を,縫合できないが軟部組織が十分創内に残存していれば遊離植皮術を,骨が露出している場合は皮弁移植術を行います。後者になるほど移植組織量は多くなり,手術侵襲は大きくなります。
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皮下ポケット(皮下に大きくえぐれた創)
(1)仙骨部褥瘡(右が頭側,左が下肢側)。大きな壊死組織があり,広範囲に発赤,腫脹,熱感,また全身的発熱を認めた。
(2)壊死組織を切除すると,内部には多量の膿。強い悪臭も。
(3)約3週間。肉芽組織が改善。
可能であれば,壊死組織はメスや剪刀で除去するのが早く確実。出血に注意!!
(1)抗生剤の入った軟膏で処置をされていた。1ヵ月以上治らない。
(2)創傷被覆材の利用で,約10日で治癒。
(1)右大転子部褥瘡。体表面の傷(開孔部)は小さく,上から軟膏だけを何年も塗られていた。
(2)大きな皮下ポケットが,存在していた(線で示した範囲)。矢印は体表面の開孔部。大転子部の大きな褥瘡は,手術をした方がよい。
(3)手術を行い治癒させた。 |